4.ベナースフ
「ルーク、ナタリア!久しぶりだな!」
海からの太陽光の反射をものともしない輝かしい笑顔で、柔らかな色の金髪をした男は腕を振った。
港に立っていた二人は変わらない彼の様子にうすく微笑む。
「変わりが無い様で何よりですわ。」
「相変わらずだな。」
「二人はずいぶん大人っぽくなったなー。元気そうで安心したよ。」
ルークをばしばしと叩きながらガイは再び笑う。
「しかし…お前は恐ろしいほど変わらんな。」
「ハハ…年食うことを忘れさせてくれる奴が周りにうろうろしているからな…その影響かもしれないな。」
わずかに遠い目をして見せた様子から、ルークとナタリアはガイの言う『奴』の存在に目星をつける。
マルクト国内で右に出る者はいないと称される凶悪タッグの二人だろう。
そうか…付き纏われているんだな。
海の水面まで飛んで行っていそうな視線を戻し、ガイは笑顔のまま声をひそめた。
「…ここじゃなんだ。俺は宿を取るからそこで話したい。」
その青い瞳に宿った真摯な光に気付き、ルークとナタリアは小さく頷いた。
「それで、一体何があった?」
部屋に着き各々が腰を休めたとたんにルークが切り出した。
本当に変わらない彼の様子にガイは軽く肩をすくめて見せ、彼もまた語りだした。
「実はこの間、グランコクマのすぐ近くでとある密猟集団が捕らえられた。」
「密猟…ですか。」
「そう、そして奴らは珍しいもので聖獣チーグルを主に捕獲していたんだ。」
長い間慣れ親しんだその動物の名前にナタリアが小さく声を上げる。
「ルークがミュウを連れて歩いていたからな。それを見た酔狂な貴族様方が主な取引先だったらしい。
俺たちがチーグルと交流を持っているって言うのが軍の中でちょっと有名でな。そいつらの拿捕に俺が呼ばれることになったんだ。」
「どうして有名なんですの?」
「…いるだろ一人。可愛い物好きの権力者が…」
小首を傾げて見せたナタリアにガイが苦笑してみせる。
隣で疑問符を浮かべているルークをよそに、彼女は合点がいったというように両掌を打ちつけた。
そして髪を揺らしながらルークへと振り返った。
「ルーク、覚えておりません?アビスマンシリーズの衣装を私たちに下さった、ピオニー陛下ですわ。
あの人ああ見えて無類のブウサギ好きでしたのよ。
大佐やディスト、ルークの名前までブウサギに付けてましたわ!」
そんな情報を知るわけが無かろう。
アビスマンという嫌なことを思い出さされてルークの表情が沈む。
「まあ元凶はその人なんだが…ともかく、その下手人たちが気になることをぼやいてた。
『この間といい今回といい、邪魔ばっかり入りやがる』ってね。
…実を言うとマルクトがチーグル密売の売り手を捕縛したのはそいつの言う『今回』が初めてだったんだ。それでそいつの言った『この間』のことがどうも気になってな、聞き出してみたら、『この間』に、男が言うにはチーグルの密猟のために5人ほどを連れて森に入り込んだらしい。
いつもなら若いチーグルを数匹捕まえれば終わりだったらしいが、その日は違った。
…さっき言った通り。邪魔が入ったのさ。」
「…それで?」
「いざ捕まえようとしたその時、いきなり飛び込んできた15.6の子供に5人全員が軒並みに昏倒させられたらしい。」
そこまで聞いたルークの表情に、「それがどうした」という色が如実に現れた。
彼にしてみれば15.6歳くらいでも、それなりに訓練をつめば大人を昏倒させるのは容易だと思っているらしい。
「まあ!なかなかの手腕の持ち主ですわね!」
「問題はそいつの容姿だ。」
感嘆の声を上げたナタリアをやんわりとガイは遮った。
ガイが浮かべていた笑みが消える。
「その子供は、赤い髪に碧の瞳をしていたらしい。」
音を立ててルークが立ち上がった。
「ここで焦ってもしょうがないぞ。」
「……ッ…」
「本当ですの?」
ガイは肩をすくめて深く頷いた。
「それは供述の段階でしかない。だから確認を取りに来た。
陛下や公爵に、そういった噂はあるか?」
判りやすくいえば『隠し子』の存在。
その問いかけにルークはゆっくり首を横に振る。
「そう言ったものは聞いたことが無い。必要ならラムダスにでも調べさせる。」
「いや…噂も小耳に挟んでないとすると、その線は薄い。」
ふーっとため息を吐いて、ガイは腰掛けていたベットへと仰向けに倒れた。
そこでようやく立ち尽くしている自分に気付き、ルークは再び備え付けの椅子へと座る。
「キムラスカの王族に話しておいたほうがいいと思った。先駆けてここへ来たことは俺達の独断だ。
…近く、チーグルの森へその人物を探索に行くことがマルクトの議会で承認された。他国の王族なら保護すべきだ、という判断だ。このことは、正式には今から3日後にキムラスカへ通達される予定になっている。
ここに来るまでに色んな街で聞き込みをしたら、赤い髪をした子供の目撃情報が何件かあったよ。珍しいものだったからみんなよく覚えていた。
それらの情報を計算したら、その子供は半年ぐらい前から目撃されている。」
「半年前?」
「ああ。ちょうどエルドラント近郊で高濃度の第七音素が観測された時期だ。」
ガイが体を戻す。
「何かある気がしてならない。
ジェイドの旦那ははっきりと言わないが、」
「レプリカ、か?」
遮ったルークの声にガイは深く頷いた。
「…その可能性が高いと見ている。」
ルークは、硬い声で言い放った男の青の瞳の奥に、夕焼け色の髪をした子供の姿を見た気がした。
俺は、また
そいつの存在を食うのか?
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2006/07/29
アッシュとルークの表記がどんどん入り乱れていきます。
二人が一緒に出てくるときはルーク。アッシュ。別々のときはどっちもルークです。
でも第三者はアッシュをルークと呼びます。
超 入り乱れてる!orz